料理で地元の野菜に付加価値を。
それが居酒屋としての使命。

居酒屋安兵衛 店長
早川 健児 さん

 

日曜日の朝、郡山市東部のとある畑を訪ねると、ビニールハウスの中で10名ほどのみなさんが大豆の殻むきをしていました。一房ずつ手仕事で豆をはじく根気のいる作業ですが、ハウスには明るい笑い声が響いています。

集まっていたのは、NPO法人郡山農学校のみなさん。2011年7月に設立されました。その定款には「安心安全で美味しい農作物の生産・消費等、地元の農業や食文化に対する理解を深める為の事業を行い、農業を主とした経済活動の活性化を通じて、東日本大震災後の郡山市の復興と発展に寄与することを目的とする。」と書かれています。このフロンティアファーマーズでもその名がたびたび挙がる鈴木農園の鈴木光一さんの指導のもと、世代も職業もさまざまな人たちが市内各地から参加しています。

そのハウスの輪の中に、ひときわ明るい声で場を盛り上げる男性がいました。郡山駅前の居酒屋「安兵衛」の2代目店長、早川健児さん。地産地消のメニューで人気の飲食店を切り盛りするだけあって、農学校でもサービス精神旺盛。周りにも自然に笑顔が広がっていきます。

でも、なぜ飲食業を営む彼がこの輪の中にいるのでしょうか。作業の終わりを待ち、その理由をうかがいました。

 
 

「うちならでは」を考える中で起きた震災

 

 

郡山の駅前大通りから北に一歩入った路地に安兵衛が開業したのは1984年のこと。以来35年以上にわたって、地元の人からも出張で郡山を訪れるビジネスマンからも愛される大衆的な居酒屋としてにぎわい続けています。早川さんも、先代店主であるお父様のもと安兵衛で働き始め、2002年、26歳で店長となりました

お通しの「いか人参、郡山が生産量日本一を誇る鯉の刺身、郡山ブランド野菜である御前人参(ごぜんにんじん)を丸ごと一本使った「人参ステーキ」、郡山西部の郷土料理「キャベツ餅」など、地元ならではのメニューを提供するイメージが強い安兵衛ですが、以前はそうしたこだわりはなかったと早川さんは振り返ります。お酒も県内のものはほんの1~2銘柄。県外からのお客様も訪ねやすい恵まれた立地でありながら、地元ならではのメニューはほとんどありませんでした。競争の激しい駅前の飲食店の中で「うちならではのメニューを提供するにはどうしたらいいか。そんなことを考える中で起きたのが東日本大震災でした。

 

「震災以降、県外のお客さんからいただく質問が、“郡山は何がおいしいの?”から“郡山の野菜って本当に大丈夫?”に変わりました。もちろん“大丈夫ですよ”と答えるんですけど、実際に野菜作りに関わっているわけではないので、何がどう大丈夫なのかわからなかったんです。

でも、自分たちで作って提供したものなら自信を持って大丈夫と言えるんじゃないか。そんなふうに思っていた時期に郡山農学校のことを知りました。農業に関わったことはまったくありませんでしたけど、農学校の中核メンバーの中にお店の常連さんもいたので、その輪に混ぜていただくことになったんです。」

 
 

畑を始めてから野菜に対するスタッフの意識が変わった

 

 

農学校で作業が行われるのは4月から12月にかけての毎週日曜午前中。早川さんはもちろん、お店のスタッフも交代で参加して、さまざまな季節の野菜の生産に関わります。また安兵衛としても独自に数本の畝(うね)を借り、お店で提供する野菜を栽培しています。

 

「初めてのこと、知らないことばかりでしたね。基本は月4~5回、3時間ほどの短い時間ですけど、植え付けの予定日に雨が降ったら天気のいい日に出直して苗を植えたり、雨が少なければ心配で水やりに来たりなど、平日に畑に来ることもあります。夏場は草取りが大変ですし、本当に手間がかかりますけど、農学校の先輩から“野菜は手間をかけた分おいしくなるものだ”と教わったので、できる限り足を運ぶようにしています。店の仕事もありますから私一人では無理で、そこは手伝ってくれている店のスタッフたちに感謝ですね。

野菜に対するスタッフの意識も、畑を始めてから変わったと思います。みんな自信を持って料理の説明ができるようになりました。“これは今日自分で取ってきた野菜なんです”って店員が言えるお店はなかなかないですよね。自分達で体験してきたことをそのままお客様に伝えられるのは素晴らしいことだと思いますし、お客様も、誰かから聞いて得た知識と実体験から得た知識の差を、きっと見抜くんだと思うんです。実際、お客様の反応が変わりましたからね。そして、地の野菜が食べたくて来てくださるお客様が本当に増えました。」

 
 

農業との関わりが店の大きな強みに

 

 

農学校との関わりは、早川さんと安兵衛に野菜以外の産物ももたらしました。それは、地元の野菜生産者とのつながりです。

 

「農学校をきっかけに地元の野菜をたくさん使わせてもらうようになってから、その生産者さん達が“自分の野菜をどんなふうに料理しているのか見てみたい”と言って店に来てくださるようになりました。“こんなにおいしい料理にしてくれてありがとう”って言っていただくこともあって、料理を提供する側として、お客様においしいと言っていただくこととはまた違う喜びがあります。

農学校で農業と関わったおかげで、お店だけでは作れないたくさんのつながりが生まれました。もし安兵衛が人気のお店だと思われているのであれば、それはまさに農学校のおかげ。農業との関わりが、店の大きな強みになったんです。」

 
 

居酒屋だからこそできる地域貢献を

 

 

今後も野菜作りと関わりながら、飲食店として生産者と消費者をつなげる存在でありたいと言う早川さん。目指すのは、郡山の、そして福島の食材のおいしさをさらに広く発信することです。

 

「本当に農作業は大変ですよね。腰は痛くなるし寒いし疲れるし筋肉痛になるし。でも、それを自分たちで経験したからこそありがたみがわかるし、わかるからこそ料理という形で付加価値を与えてあげたい。それが、飲食店としての安兵衛の使命だと思っています。

野菜ってどうしても好き嫌いを持つ人が多いじゃないですか。でもそれって、本当においしい地元の野菜に触れていないからだと思うんです。食育というと少し大げさかもしれませんけど、うちで本当においしい野菜を食べてもらうことで、野菜の好き嫌いや野菜に対する偏見をなくしたいですね。

郡山には本当においしいものがたくさんあります。野菜や鯉といった食材はもちろんですが、日本酒もおいしいし、最近はウイスキーもある。せっかく郡山の駅前で商売をやっているわけですから、その立地を生かして郡山や福島の野菜やお酒をどんどん盛り上げていけたらと思っています。それが、居酒屋という立場からできる社会貢献、地域貢献、地元の人への恩返しじゃないかなと思っています。」

 
 

 
 

 

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居酒屋 安兵衛

福島県郡山市大町1-3-12

TEL: 024-933-9326

営業時間:17:00~翌0:00(ラストオーダー23:30) ※年中無休

https://www.facebook.com/otokomae.izakaya.yasubey.hayakawa/

 

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2020 . 2 . 7

Photo by : 佐久間正人(佐久間正人写真事務所)
Interview / Text by : 髙橋晃浩 (Madenial Inc.)

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